ホレンテ島の魔法使い 感想 続き

 昨日の深夜にノリと勢いだけで書いたブログが作者様に見つかってRTされてしまったのちょっと恥ずかしいな……でも深夜のテンションで突っ走るのはホレンテ島あるあるじゃない?
 2巻を何回か読み返したので気づいたことを書いていきます。

①遊佐神社について
 香取信仰と遊佐神宮の確執については実は2巻60ページ、鉄道唱歌の一節でも示唆されていました。
 ユシャの家でもある裳之美酒店はるぶぶ08にて神社の例大祭にお神酒を提供していることが明言されています。裳之美酒店は商工会長でもあり(1巻p82)、上記の確執のあった時には神社側についていたんじゃないかと予想できます。現在も魔法使いを管理しているのが商工会のはずなので(これは2巻18pでそんな会話をしている)、なんやかんやでカトリネルエ側が引くことで和解したんだろうなと思います。
 ここからさらに踏み込んだ考察をしますが、るぶぶ06でざんねん坂について、島の東部に水を通す河川工事が難航していたことが明記されています。この難所の名前は“太郎塚”。2巻で毛皮の男が東部に二郎川、三郎川を通したことが書かれているので、この河川工事を請け負うことが和解の条件だったんじゃないかなぁ……という予想ができます。太郎塚から発掘された文書は土木関係、とも書いていました。
 島の西部はド田舎だとかバスも通れないとか言われているけれど、東部が昔から栄えていたわけではないことを考えると、島の北西(裏表紙の島鳥観図でいう島の反対側の集落)が歴史的に島で一番栄えていた場所なのかなと思います。石切りで栄えた歴史がある以上石材を運搬するための港が必要なわけだし。
 ……とここまで書いたけどそういえば東ホレンテには石切通りがあるんですよね。この通りが河川工事が完了した江戸後期からできたものなのか、それとももっと前からなのか……そもそも石切山で石材の採取が行われていた時期がいつなのかも不明ですからね。なんとなく石材の需要って築城と結びついてて戦国時代ごろ?と思っていたけど、よく考えたらその時期だと多分トロッコのレール引けないんだよね……つまり江戸後期から明治ごろにかけて、石材を採っていた……? うーん……
 つまり、川の流れている島の北西部がもともとの集落で、南東部は川がないから人が住むには不向きの場所なので、そっち側に石材など資材のための港が作られていた。石切りが行われなくなってお役御免になっていた港を観光客向けのテーマパークじみた商店街として整備しなおした……みたいなことなのかな。

②ボルゴンドラ古語について
 2巻のp17で“ボルゴンドラ古語が解読できるのは島に三人”と明言されていますが、先生、都橋杉太郎は確定としてあと一人が不明です。まぁ順当にいけば裳之美八愚楽なんだろうけど。
 帽子屋の宵句の中で“帽子”を“ソンブレロ”と言っていて、これはスペイン語を源としていることがわかります。僕はスペイン語はさっぱりですが、物語のキーワードの"ESTOY ENAMORADA DA DITI"もなんとなくスペイン語で訳せそうな雰囲気があります。グーグル先生曰く3単語目のDAを抜いてスペイン語→英語翻訳するとI'm in love with youとのこと。前回の考察でうっすら言及した“ユサ”は英語の“user”、持ち主とか主という意味になるみたいです。
 物語のベースになっているグリム童話はドイツのものですが、スペイン・ポルトガル大航海時代の主役の国なので筋は通っていますね。おそらく魔法使いはタピってなかったんじゃないかなぁ……という気はしますが。
 あと宵句について、前回考察で3種類と書いていましたが発煙の宵句を忘れていました。発動のトリガーとなる“fumar”はスペイン語で“煙”のことです。そのまんまですね。

③尾谷こっこについて
 こっこに親がいないということで孤児なんじゃないかと思っていましたが、1巻の100pで八愚楽が「尾谷の娘か……」と言っています。こっこの親は商工会と繋がりがあり、そして今は死んでるか少なくとも島にいないことが予想できます。そうじゃないとこんな言い方しないでしょ。
 1巻の舞台裏バトルでの会話から、こっこは商工会に知られている断片所持者であることがわかります。まあファーマンの庇護下にある人間だから当然か……
 こっこは1巻最初の魔法をかけるシーンで“女神キノ”と言っていたり、タピオカ談義の時の詠の所感から他の人たちよりも詳しく魔法使いについて知ってたんじゃないか……? という気がしていたんですが。タピオカを「ネコちゃんに分けたりしていた」という主張についても適当言っただけかもしれないけど、ホレンテ童話でカトリネルエが猫を飼っていたことは知られているのでカトリネルエ=魔法使いを知っていた……とするのは考察としては乱暴でしょうか。カトリネルエ童話についても「可愛らしいだけのお話では終わらない」と言っている(1巻p78)ので、これについて何かしら詳しく知っているというのは間違いないと思います。(これが最終話につながるんですね。)
 1巻p107、こっこのソロパートの歌詞と先生のリアクションは相当考察において重要だと思うんですけど、結局何だかわかんないままになっちゃったな……このパートはホレンテ島のもとになった童話「美人のカトリネルエとピフ・パフ・ポルトリー」が元になっている気はするんですけどね。元ネタは求婚のお話なので。3コマ目の先生は舞台でのこっこの姿に母親の面影か、もしくはカトリネルエ自身の面影を見たのかもしれません。つまりこっこはカトリネルエの直系の子孫だった説ですね。それを確かめる術はないけど。
 汽車とのレースのラストで、譲れない矜持は「魔法とそれを託してくれた人たちへの」と言っているんですが、つまりここまでこっこが魔法に対して強い意志を持っているのは今はいない親への想いと同一なのかもしれないですね。

④ホレンテ島山間部について
 鉄道駅の名前は現状東合線しか明かされていませんが、ここからも色々考察することができそうです。
 東合線というのは埼京線みたいに、東ホレンテと転合宿(読みはころがりあいのじゅく、かなぁ……)をつなぐ路線で、途中の山科追分で分岐、分岐先は石切山の採石場に繋がっているのかなぁ……という予想をしています。終点の転合宿は“宿”とついている以上宿場町としての歴史がある、のかなぁ…… 山科・追分は京都に同様の地名がありますが、一般的な名称でもあるので深く考える必要はないと思っています。
 この中の保島地区というのが、ホレンテ島の昔の名前じゃないか? という予想があるのですが、だったら何なんだということと島の名前って変わることあるのか?ということとそもそもホレンテ島の名前の由来をメタ抜きに考えることができるのか? というのがあって正直よく分からないです。ホレンテというのが島の外から持ち込まれた言葉(周辺海域の島の名前も同様)で、例えばオーストラリアのウルルにイギリス人がエアーズロックと名前を付けたように、外部からつけられた名前を嫌がって日本語のような名前を付けなおした……という予想とかはできますけど。
 もしかして、そうなると“香取観音”というぶち壊し設定みたいなやつも、世界大戦の影響による敵性語の排除と信仰の保護(隠れキリシタンマリア観音のような)という背景があったのかもしれません。それで大戦が終わり、過去に使われていた“ホレンテ”の名前を復活させたとか……きらら4コマでWW2の話するの嫌だな。
 ごちうさの考察で、舞台の木組みの街はWW2で勝利した日本の植民地説みたいな考察好きだけど嫌いだけど好きです。電池少女じゃないんだから……
 ずんどこ温泉郷についても変な名前ですけど、ズンドコ節のズンドコも語源不明の言葉なんですね。歌の音頭から取られた言葉としてはこのお話にふさわしい気もしますし、最後の宵句の説明に使った東海道五十三次風の浮世絵でズンドコに「寸床」の漢字を充てています。“ちょっと一休みをするところ”というニュアンスを持っており、色街をルーツとする場所であるかもしれないと示唆しているいい表現だと思います。

⑤カトリネルエの最期について
 最終話のラストで結末についてそれとなく言及され、答え合わせをせずに終わってしまいました。読者諸君のそれぞれの感想に任せるよ、ということなんでしょうが、これについても少し考えてみます。
 なぜカトリネルエは故郷に帰れなくなってしまったのか。魔法は奪ったり奪われたりするものなので、例えば物理的な話をするなら魔法の力でここまで航海してきたカトリネルエがここで魔法を奪われたから島から出ることができなくなってしまった、とか。ホレンテ島の外で魔法は使えないという設定と島の外から魔法使いがやってきたという設定がそもそも矛盾するので、原初の魔法使いはその場所に関わらず魔法を使うことができた、そしてその能力をここで失ったということが考えられます。お話の中では魔法は人から人へと移るものだと描かれていますが、実際のところ人以外(島全体)にも魔法が移るのであれば、あむの主張は設定と矛盾しないことになります。ただここでこっこが「バカね」と返しているのがやや気になります。こっこ自身はあむに心を奪われているので、自分をカトリネルエに例えて「島よりも素敵な外から来た人」がいたんだよみたいな表現をしたいのかもしれません。でもそれもあむに言わせれば島の一部と言えるので、もうなんでもいいです。

 最後に。作者様のツイッターを見に行ったら魔法つかいプリキュア!についての言及がありました。僕はまほプリを見てないんですけど、伝説の回については界隈が騒然としていたので画面写真は見たことがあって、このお話のラストもそれっぽいなぁとなんとなく思っていました。よく知らない作品なので言及しなかったんですが、どうやら意識して書かれたものである可能性が高いので、もしかしたらまほプリ見たほうがいいのかもしれません。全50話かぁ……

(追記)
 書店特典のイラストカードあるじゃん!!!!!!!!電子書籍の民だから全然知らなかった。都橋姉妹の妹は文という名前で髪型がボブだから双子でも間違いようがないですね。
 で、カトリネルエはもう完全にこっこの血縁ですね。やっぱりそうなのかなーと思ってたんだよ。本当だよ?

(さらに追記)
 1巻77ページ、カトリネルエのお話について説明がある扉絵があるんですけど、読み返してここに振られている番号が気になりました。HKHM16と書かれており、これはグリム童話を管理する通し番号であるKHMに、ホレンテのHをくっつけた、まとめると「ホレンテ童話その16」みたいな意味だと思います。
 ホレンテ島の魔法使いの元ネタである「美人のカトリネルエとピフ・パフ・ポルトリー」にも当然番号が振られていますが、その番号は131。この数字と一致しません。
 そもそもホレンテ童話のカトリネルエのお話はグリム童話と異なるので、別に深い意味は無いよで終わってもいいんですけど……ここから先はこじつけ色が強くなります。ご了承ください。
 グリム童話のKHM16は「三枚の蛇の葉」というお話です。内容は簡単にまとめると、死者を蘇らせる3枚の葉を用いて蘇ったお姫様が王子様を殺害する計画を立て、殺された王子様は葉によって復活したあとそれを王様に報告し、お姫様は共犯の船長と共に穴の開いた船で国外追放されてしまう……という昼ドラもびっくりの激重ストーリーです。結構大事なところをはしょったので気になる人はググってください。
 ちょっとこじつけが過ぎる気はしているんですけど、もしもこのお話のカトリネルエがこの島にやってきて、帰れない理由が「国外追放の罪を負ったから」だとしたら……? スペインから船で太平洋までやってくるのはちょっと無理がありますが、そもそも国外の女性がわざわざ船で外国にやってくる理由ってそんなに考えられないんですよね。いや可能性の話だけすればいくらでもあるか。
 上の⑤に通じるんですけど最終回でカトリネルエが島の外に恋人がいるのに心移りした、ということは明記されています。可能性のひとつとしてはそういうのもあるかも……こんなこと考察するんじゃなかったなぁ……

 ということで、この漫画は考察に終わりがないですね。さすがに最後のはやりすぎだと思いますが。総じてすごい良い漫画でした。