Test Piece

 朝、目を覚まして真っ先に見るメディアは新聞だった。それがやがてテレビへ、スマートフォンへと変化していった。
 通勤のための移動中、昔はラジオを聞いていたことがあった。それがカセットテープへ、MDへ、ウォークマンへと変化していった。今はBluetoothのワイヤレスイヤホンを愛用している。
 インターネットの普及とともに、人々のコミュニティも大きく様変わりしていった。平成の始まりとともに生まれた千春は、個人サイトやニコニコ動画の栄えた時期を青春として過ごした。友人とEメールでつながり、トグル入力でメッセージを打ち込んでいた。キャリアによって使える絵文字に差があることに怒ったり、いくつも重なっていくRe:の文字に喜んだりした。通話専用のPHSを持っていた友人もいた。昔の話だ。
千春は父親の影響を受け、幼少期からパソコンを触っていた。プログラミングなどの専門知識はからっきしだが、ネットサーフィンには慣れ親しんでいた。好きな漫画やアニメ作品の活発なファンサイトを見てきた。いくつものSNSが生まれては消えていく様を眺めてきた。今はTwitterを活動拠点にしている千春は、なぜ人々がTwitterを使い続けるのかに疑問を抱きながらも、それでもこの息の長いサービスを使い倒していきたいと考えていた。

 平成という一つの時代が終わりを迎えようとしていた。

 インターネットの流行り廃りは目まぐるしい。たった1クールのアニメが両手両足の指をすべて使っても数えきれないほど放映され、次々に立ち現れるソーシャルゲームのイベントを走ってはガチャに散財し、それでいて定期的な“祭典”に向けて長期的な準備を強いられる。いつからこんな生活になったのか最早定かではないが、それでも千春はほどほどにインターネットと付き合いながら日々を過ごしていた。
 昔から漫画は読むのも描くのも好きだった。描き始めの頃の作品は直視できないほど酷いものばかりだったが、時間の経過とともにある程度の技量は身についた。だが、漫画家になるつもりは全く無く、今も時々趣味で描く程度に落ち着いている。

 百合というジャンルが近年急に勢力を拡大している。昔は「間に挟まりたい」という勢力と百年戦争をしているだけのジャンル、という程度の認識だった千春は、なんとなくこのジャンルに興味を持っていた。百合であれば男を描かなくてもよい、という点が千春にとっては魅力的だった。

 百合の作品については何もしなくてもTwitterで回ってくるし、また百合作品を専門とした漫画雑誌もあったことから傾向を理解することは難しくなかった。リプライツリーに「尊い」とか「続きが読みたい」とかよく分からない漫画のコラ画像がぶら下がっている作品を参考にしていた。そういう人気が得たいわけではなかったが、定期的な趣味としての創作のテーマには悪くないと思っていた。


 何でもないただの土曜日。千春はちょっとした買い物のためにホームで電車を待っていた。都心からはそこそこの距離がある、閑散としたその駅では目的の電車に乗るために少し時間を潰さなければならなかった。いつも通り、ベンチに腰を掛けてスマホに目を落とす。千春はそこまで画面を見るのに集中していたわけではなかったが、その時後ろから近付いてきた存在には話しかけられるまで気づくことができなかった。

「あの、すみません……」

「え? あ、はい」

 着けていたイヤホンを外し、千春は振り返った。そこにいたのは見た目高校生くらいの少女だった。どこにでもいそうな特徴のない顔立ちだが、千春の好みのタイプだった。それに、なぜかどこかで見たことがあるような気がしてならなかった。少女は言葉を続けた。

「あの、片沼千春さん、ですよね……? 覚えてますか?」

 どうやら彼女とは初対面ではないようだ。千春は何とかして思い出そうとしたが、しかしどうしても彼女とどこで出会ったのか思い出せなかった。

「ごめんなさい。思い出せなくて……えっと、どちら様だったっけ……」

 こういう空気を千春は非常に苦手としていた。相手は自分のことを覚えているのに自分は覚えていないというのはとても失礼なことをしている気分になるのだ。だが、このシチュエーションなら覚えてなくても許されるだろうと考え、千春は少女にそうやって尋ねた。彼女は少しショックを受けたような表情をしたが、すぐに繕って返事をした。その様子に千春はまたしても既視感を覚えた。

「すみません。私、高校時代に片沼さんの後輩だったんです。でも直接会話したことは1回しかないので、覚えていなくて当然ですよね」

「あ、そうだったの。ごめんなさい覚えてなくて。えっと、お名前は……」

「……        です」

 目の前のホームに電車が来たせいで、少女の声がうまく聞き取れなかった。聞き返そうかと思ったが、この電車に早く乗らなければいけない。思案する千春に、彼女が再び声を掛けた。

「千春先輩。私、応援してますから。これからも頑張ってくださいね」

「……ありがとう。また会えたらいいね。それじゃ」

 急いで電車に飛び乗り、閉まるドア越しに少女のほうを見た。彼女はずっと千春のことを目で追いかけていた。彼女が見えなくなってから千春は席に座り、再びスマホを開いた。

 いつもの手癖でメモ帳を開いた。その瞬間、千春は先ほどの既視感の原因に気が付いた。

 千春はスマホのメモ帳に創作のためのネタを溜め込んでいた。その中の一つにこんなシチュエーションがあった。


“社会人になり、ひょんなことから高校時代の後輩と再会するすれ違い百合”





 ◇



 次に彼女が現れたのは翌週の平日だった。仕事を終えて帰宅した千春は、自室の鍵が開いていることに気が付いた。家を出る際に鍵を閉め忘れたのかもしれないと思いながら恐る恐る扉を開くと、おいしそうなシチューの匂いが漂ってきた。

「あ、千春さん。お帰りなさい」

「……ちょっと待って」

 エプロン姿の彼女がお出迎えをしてくれた。状況が全く飲み込めない。千春は警察への通報を視野に入れながら、恐る恐る彼女に話しかけた。

「あの、あなたは……」

「あ、申し遅れました。私、千春さんのお父様の再婚の関係で千春さんの義理の妹になったんです。とりあえずご挨拶と、一緒に晩御飯でもと思いまして。もうすぐ出来るのでちょっと待っててくださいね~……」

「……」

 呆然と立ち尽くしていると、バッグの中で千春の携帯が震えた。父親からのメールで、再婚が決まったことと相手方の家族に住所を教えたという内容が示されていた。そもそも両親が離婚していたという事実などなかったはずだが、今の千春は疲れと混乱からまともな判断ができない状態になっていた。そういうものなんだと無理やり納得し、自室で部屋着に着替えて料理の完成を待った。


「千春さん、どうぞ座ってください。お仕事お疲れさまでした」

「ありがとう。じゃあ、いただきます」

 シチューを口に運ぶ。長らくスーパーの半額弁当や冷凍食品ばかりを晩御飯にしていた千春にとって、作り立てで温かみのあるそのシチューは感動的なまでに美味しかった。

「……おいしい」

「本当ですか! ありがとうございます! 私、料理くらいしか取り柄がないから……」

「そんなことないよ、私なんて料理すらここ数年まともに作ってないし。家族と食卓を囲むなんてのも随分久しぶり……
 えっと、妹になったのよね? 全然実感がないんだけど」

「はい! あ、お姉ちゃんって呼んでも……あっ、すいませんいきなり。私、一人っ子だったので兄弟っていうのにちょっと憧れてて……」

「あ、私もそうなの。昔は妹が欲しいって母にせがんだこともあったんだけど、まさかこんな形で叶うことになるとは思ってもなかった」

「じゃあこれからいっぱい姉妹らしいことしましょう、お姉ちゃん!」


 その後も終始彼女のペースで話が進んでいった。仕事がどうとか、休みの日がどうとかいう話をしたり、リビングの机に置いてある漫画を彼女も読んでいたらしく、その話で盛り上がったりもした。

 彼女が後片付けもしておくからと強く主張してきたので、千春は先に風呂に入らせてもらうことにした。お湯張りも事前にしてくれていたようで、こんなに快適な平日の夜は随分久しぶりなように感じた。お湯に浸かって癒されていると、思考能力が回復してきたのか、千春は様々な違和感に気付き始めた。
 まず両親の離婚という事実がおかしい。そんなことがあれば真っ先に情報は入ってくるはずだし、前に帰省した時にもそんなそぶりは全くなかった。というか先週も母親と電話で話したばかりだ。
 次にそれが事実だとして、父親からのメールのタイミングもおかしいだろう。もっと事前に連絡してくれないと、そもそも彼女を招き入れる準備ができない。ここで千春は彼女がどうやってこの部屋に入ったのかという疑問にぶつかった。やはりおかしい。彼女は実は空き巣の類で、今自分が目を離している隙に金品などを盗んでいるのかもしれない。そう思い立った千春はすぐに風呂から上がり、バスタオルを体に巻いてリビングに躍り出た。


 そこには彼女の姿はもう無く、きちんと洗われた食器類と作り置きのシチューのみが残されていた。父親から来ていたはずのメールも痕跡は確認できなかった。




 ◇



 度重なる怪奇現象に、千春の精神は少なからず消耗していった。仕事でも小さなミスが目立ち始め、創作活動のほうも上手くシチュエーションが思い浮かばず迷走気味になっていた。千春は長めの休暇を取り、少し遠くへ旅行することにした。景色のきれいな山間の温泉街だ。また、この旅行でスランプの元を断ち切ろうと考えていた千春は、事前にとある準備を仕込んでいた。


 千春にとって初めての一人旅だったが、下調べもシミュレーションも抜かりはく、無事に温泉宿まで辿り着いた。そして、お出迎えの挨拶に来てくれた仲居の中に、千春は目当ての人物を見つけた。

 部屋に案内してもらい、荷物の整理をした千春は仲居に近くの観光案内を頼めないかお願いした。仲居はひとまず近くの展望台まで千春を連れていくことを了承してくれた。展望台は人気が無く、それでいてこの温泉街を一望できる、千春の思い描いた通りの場所だった。

「それじゃあ改めて聞かせてもらうけど、あなたって、一体何者?」

 千春は考えていた通りの質問を目の前の仲居にぶつけた。何を聞かれているかわからず困惑しているその仲居は、先日ホームで会った後輩と、先日家に押し掛けてきた義理の妹と同じ顔をしていた。

「えっと、質問の意図が……私はそこの旅館の仲居ですが……」

「本当はわかっているでしょう? あなたは、私の創作と関係がある存在なんじゃないかと聞いているの」

 そう言いながら千春は自分のスマホを相手に見せた。そこには創作のためのメモが書かれており、その最新の内容は“温泉宿の仲居が不思議な女性客に徐々に惹かれていく”というものだった。

「自分でこう書くのも恥ずかしいんだけどね。でもあなたならきっと出てきてくれるだろうって、なんとなくそう思ってた」

「……」

 仲居は少し逡巡しているようだった。しばらく沈黙が続いたが、やがて仲居が口を開いた。

「そうですね。まずは、お疲れ様です。ヒルガオ先生」

「……うん、ありがとう。話す気になってくれたのね」

 ヒルガオというのは千春がインターネット上で使用しているハンドルネームだ。それを知っているということは、目の前の少女が千春の創作の関係者だということの自白に他ならなかった。

「じゃあ、改めて。あなたって何者なの? 私の書いたメモに沿って行動しているのって、どういうこと?」

「私はただの仲居です。……いえ、正確に言うなら今の私は、と言うべきでしょうか。
 先生の後輩として現れたのも、妹として現れたのも、私とは別個の存在として考えてください。
 私たちの存在は確かに先生の創作によって生まれたものです。ですが同時に、私たちの今までの生活、人生の一部分を切り取ったものが先生の作品なんです」

「……うん」


 彼女の説明は難解だったが、千春はなんとかその意味を考えた。彼女たちは自分の創作の“世界観”に人格を与えたような存在なのだ。

「私たちが先生とこういった形でコンタクトを取っていることには、深い意味はありません。私は生まれた時からこの街で生活してきて、去年から仲居のバイトをしていて、そこに今日たまたま先生が訪れただけなんです」

「……じゃあ、どうしてあなたは他の自分の存在や私の創作のことを知ってるの?」

「私の存在はそういうものなんだ、という自覚がいつの間にかあったので。先生だってもしかしたら誰かの創造した存在かもしれませんよ」

「えっ?」

「……なんて。冗談です」


 悪戯っぽく笑う少女を前に千春は畏怖の念を感じた。彼女の持つ自我というのは一般的な人のそれとは大きく異なるようだった。


「なので、私から言うことは特にないです。私の人生で一番ドラマチックな瞬間を先生は作品という形で世に送り出してくれているんですから、私は応援してますよ。あ、最近はちょっとスランプ気味なようですけど、そこはぜひうちの温泉で癒されていってください」

「……うん、ありがとう。何とかスランプ、脱出してみせるよ」


 本来もう少し困惑するべきなのかもしれないが、千春は彼女の激励を素直に受け入れた。爽やかな秋の風が2人の髪を揺らした。

「……私の創作のスタイルって、あなたから見てどうなのかな。本当はね、長編を描いてみたりスピンオフを考えたりも少しはしているんだけど、今のTwitterメインの公開だとちょっとね……」

「そうですね……まぁ、どちらでもいいんじゃないでしょうか。私だって先生に知られてないだけで過去に面白いこともありましたし、私が面白いって思わなくても読者の方に受けたりすることもあるかもですからね。ネットで手軽に読める数ページの作品ってだけでかなり制約はありますけど、その分多くの人に見られる可能性があるわけで、SNS時代に適応してるって割り切っちゃっていいと思います」

「ありがとう。ちなみに過去の面白いことっていうのは」

「自分で考えてください、どうせすぐに分かることです」

 創作のネタを彼女自身から聞き出そうとした千春だったが、彼女にはやや食い気味に断られてしまった。やはりズルはできないようだ。千春は少し残念に思ったが、それでも仕方のないことだろうと考え直した。思考停止して彼女自身の人生を聞き出すというのは、もはや自分自身の創作を捨てることと同義なのだ。

 夕暮れが近づいてきた。宿に戻ろうとする彼女に、千春はどうしても聞きたかった問いを投げかけた。

「そういえばあなたって、名前はなんていうの? 私はあなたたちのことを何て呼べばいいのかな?」

 少女は足を止め、振り返った。やはり彼女は千春にとって魅力的な雰囲気を身に纏っていた。

「それは、先生が決めてください。大丈夫ですよ、私たちを何と呼んでも。」



 宿に戻った千春は、それ以降彼女の姿を見ることはなかった。担当の仲居も別の人物にすり替わっていた。だが、目的を十分に達成した千春はそのことをすんなりと受け入れた。






「あっ、先生ずるいですよ。今のはノーカンです」

「何言ってんの。あんたの癖なんてお見通しよ」


 月日は流れ、無事にスランプから脱出した千春は、以前と変わらず趣味の創作活動を続けていた。現在は例の少女とTVゲームで遊んでいる。ちなみに彼女は今回は帰宅途中に橋の下で眠っていたのを拾われてきた、という設定だ。

「はい、私の勝ち。やっぱ息抜きは大切だよね」

「別にいいですけど。ちゃんと創作のほうもしてくださいよ?」

「はいはい。あ、そうだ。ちょっとあなたに伝えたいことがあって」

 一旦ゲームを止めて、千春は冷蔵庫から白い箱を取り出し、机に置いた。少女も一緒に箱の中身をのぞき込む。中身は小さめのホールケーキだった。

「私があなたを創作して今日で1年だったらしいんだよね。だから、誕生日おめでとう。ヒルガオちゃん」


 そう呼ばれた少女は少し驚き、その後照れ臭そうに笑った。

「……ありがとうございます、先生。なんだか、まるで百合漫画みたいな展開ですね」

俺たちの知らない関係性

 漫画の話をします。

 

スクール×ツクール(1) (ゲッサン少年サンデーコミックス)

スクール×ツクール(1) (ゲッサン少年サンデーコミックス)

 


 表紙に3人の女の子が映ってますね。100点。

 この漫画はTwitterで存在を知りました。皆さんも知りましょう。リンク先からぶら下がりで1話が読めます。

 

 

 こんな話です。もちろんDIYに興味はあるしその話をしてもいいんですが、それより今回はこのお話の中の人間関係に触れていきます。

 あっ、この触れていくというのは論点にするという意味で、決してこう、関係性をDIYする、みたいな意味では無いです。 ?

 

 上のツイート最後まで見ましたか?じゃあ買ってください。

 

 えっ、pixivコミックだとその他の回も読める!? https://comic.pixiv.net/works/5696 読みましょう。

 

 人間関係と言いましたが、3話から生徒会副会長が登場します。表紙で一番小さく描かれている人ですね。

 まとめると登場人物は

・奈子 文芸部員、主人公

・きずく DIYの人

・亜紀 生徒会

 となっています。DIYのインストの漫画なので、DIYについて何も知らない奈子が主人公というわけですね。ヤマノススメでも登山ド素人のあおいが主人公なわけですし。

 

 さて、3話から亜紀が物語に介入し、部室の占有をするきずくをやめさせようとしてきます。みぃって言いそう。この二人は決して仲が悪いわけではなく、また、1話より前からこの関係を継続しているわけです。

 主人公の奈子はは汐宮栞ばりに全然喋らないので、基本的に人間関係は受動的です。このお話の人間関係の中心にいるのはきずくで、我々は奈子視点で登場人物の関係性を見ていくわけです。

 

 そこがめっちゃいいんですよね。

 

 

鉄風(1) (アフタヌーンコミックス)
 

 

 鉄風っていう漫画知ってます?総合格闘技を扱った(ように見せかけた才能と感情と人間関係のバチバチなバトルもの)作品なんですけど、この作品には僕が個人的にめちゃくちゃ気になる人がいるんですよ。

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1巻1話p25

 

 この冷や汗垂らしてる人です。何故か物語のスタート時点から格闘技部に入っていて、この今から戦おうとしている2人を傍観しているわけですけど、彼女はずっとこのポジションなんですよね。名前も知りません。いやまあ、2巻までしかまだ読んでないんですけど。

 彼女が何故この部にいるのかとか、この異常な2人をどういう目で見てるのかとか、他に人間関係はあるのかとか、めちゃくちゃ気になるんですよね。スピンオフが欲しいんですけど……

 ちなみに言うと主人公の方には格闘技をしない親友がいて、彼女の方は活躍する回が与えられているらしいです。

 

ルミナス=ブルー: 1 (百合姫コミックス)

ルミナス=ブルー: 1 (百合姫コミックス)

 

 

 メインの関係性を外部の視点から読み解く、ということを試みた漫画といえばルミナス=ブルーがあるわけですが、こっちは読んでません。まぁ……うん……

 

(このリンクを貼るためにKindleストア検索してたら不揃いの連理が出てきて、別の関係性を前提とした関係性が素晴らしい漫画なんですけど、というかそういうのについても語りたい(語るべき作品がたくさんある)んですけど、ひとまずまたの機会とします。)

 

 

 

 

 

 

 

 学校の備品を壊すな。

 

小説について

 まず初めに。歳を取りました。祝ってくれた皆さんありがとうございます。僕は歳を取るということに対して一切努力していないのですが、それで祝ってくれるのは嬉しいですね。ちなみに努力をしてもわかりやすい結果がないと祝ってもらえないことが多々あるので、自分はメンタルと祝われを切り分けてる節があったりします。

 1度目の脱線をしました。会合の中で少し小説について触れることがあったのでちゃんと文字として残しておこうかなと思います。どうやらこの文章には需要があるようです。小説書くつもりが一生無い人には価値のないブログのはずです。

 

 ※今から書くことは正しくない情報がかなり混じってる可能性があります!参考にするのは自己責任で!※

 字書きの人ってたくさんいるみたいですからね。把握してるのはW氏、A氏、H氏、D氏‪……‬それぞれに異なる主義があって、ここから書くのは僕の話です。

 

 

自分語り

 

 自分が小説書いてみようかなと考え始めたのが去年くらいでした。2018年の6月とかです。それまではあんまり小説に興味がないというか、なろう小説くらいしか読んでませんでした。最近は逆になろう小説をあまり読んでないです。

 文章の巧拙って全然分かってなかったんですよね。今もまだ分かってないところはあると思いますけど、やっぱり1本書く前と後で文の見方って全然変わってくると思います。

 初めは本当に酷かったですね。生まれて20年と少し一切の自作小説を書いたことのなかった人が小説を書くとどうなるか想像してみてください。僕の書いたものはその20倍は酷かったと思います。

 書いてる時って酷いってわかんないんですよね。後で見返すのって重要だと思います。今書いてるのも後から見返したら酷いものかもしれません。ただまぁ「文が酷すぎて読むのが辛い/途中でブラウザバックしちゃう」が発生しない程度にはマシになっていると思います。たぶん……最低ラインは超えてるかと……

 じゃあ文の巧拙に拘りがない、なんでも読める人間が最強か、という議論もできるんですが脱線なのでしません。

 

 

書くものの内容

 

 一応百合を書きますみたいなスタンスでいます。なんでだろう、よくわかんないな。でも単純にどっかで見たことのあるものじゃなくて、ちゃんとオリジナリティのあるものをどこがオリジナリティか分かるように書けたらいいかなって思います。嘘。今思いつきました。でも書いてるものをどこが面白いのかは整理してるのでプレゼンできます。しません。嘘。配信でしてます。(これをプレゼンするまでもなく伝わるようにしなければいけない。でもわかる人にだけわかるくらいの方が感動の度合いは高い気がする。よくわからん)

 短編と長編で書き方って全然違います。ここでいう短編っていうのは7000字以下くらいです。主観。構造物〜〜は大体平均5000文字くらいだと思います。文字数については後で触れます。

 プロットについては自分の場合は特に決めてません。まぁ最近は短編しか書いてないので、無くてもいいかなって。長編でプロットをやる(この回でやることっていうのを箇条書きにする)とそれだけしかしてない文章が生成された経験があります。これはプロットどうこうの問題ではなく単純に僕の技量が0だった可能性があります。

 

 ここからとても重要な話なんですが、小説は書けなくても死にません。上の内容を読んで「まずプロットの思いつき方を教えろ」という意見があるかもしれません(ないよ)が、そうなるのであれば書かなくてもいいのではと思います。ちなみに自分のプロットの練り方は全く統一されておらず、構造物〜〜でも現状の4篇は全てスタートラインが違います。脱線でした。

 

 

作業環境とルール

 

 自分はPCやタブレットで書いています。PCではWord、iPadではPages、Androidタブレットでは文字数メモアプリを使っています。正直全部Wordでいい気もしますけど、Wordはフォント等文字の装飾機能や勝手なスペルチェック、段落分けが邪魔と言う人もいました。僕はあんまりソフトにこだわりは無いです。

 ただ自分の中で段落下げは守ろうという意識があるので全角スペースが入れづらいiPadは書くのが面倒でした。この点はOSの更新によって解決されています。この文章もiPadで書かれています。

 自分は音楽を聴きながらでさえ小説が書けないので基本的に無音で書いています。1回TRPGのオンセを見学しながら小説を書いたら3時間で700文字くらいでした。でもこれは本当に人によると思います。

 

 文章を書くにあたって正しい漢字表記や段落下げ、全角数字、記号の使い方など様々な一般的ルールがありますが守る必要は無いと思います。俺は雰囲気で小説を書いている

 個人的には文字数がわかる環境の方が嬉しいです。文の巧拙は数値化できませんが文字数ならできるので。逆に自分を絶対評価したくない人は文字数を表示しないように設定するのがいいかと思います。ここまででおよそ1800文字です。頑張ったなぁ。

 

 小説を書く上で人称のルールは避けて通れないと思います。僕は基本的に三人称で書いています。初期には一人称で書いていましたがこっちの方が向いていると思ったので。ただ一人称では書けない/三人称では書けない小説というのがあってそれ書ける人間は本当にすごいです。

 あと三人称で書くときに登場人物の心象描写のルールみたいなのがあると主張する人もいますが自分は無視してます。俺は趣味でやってんだ。

 

 そういえば改行について書くのを忘れていました。自分は改行多めにしています。理由は、自分の好きなネット小説が改行多めだったからです。つまりは好みです。ルールなんて無い。

 

 

心の拠り所

 

 定期的に上手い文章って何?ってなりませんか? ならないならいいんですけど、僕はなるので困ってます。いろんな小説をインプットしてやっていくしか無いと思ってます。困ったら一旦ストップして拠り所となる作品を読む。これです。

 この拠り所、小説だけが対象ではなく漫画とかその他のコンテンツも参考になります。僕の考えです。してます。

 これ、さっきは例えとして上手い文章を挙げましたが、例えば「友達以上探偵未満(麻耶雄嵩)」の淡白な文章表現がこれでもいいんだ、という自分への自信になっていますし、H氏のご友人の小説はあまりにもやり過ぎなくらいの心象描写にこれをやってもいいんだと新たな気づきを得ましたし、色々なものから色々なものを得られるのでなんかこうアレだと思います

 

 

 飽きてきたな。

普通の女の子と完全な球体のカップリング


 丸瀬円香にとって、丸という記号は特別だった。

 一丸、円満、大団円などという熟語にもあるように、丸にはフレンドリーでポジティブなイメージがある。その記号を2つも賜った自分の名前を円香は気に入っていた。自己紹介でも名前をいじって一笑いが取れる。ついたあだ名も「まるまる」だ。円香にとって丸はアイデンティティですらあった。

 だからこそ、その光景を見て円香は驚愕した。

 乗り込んだ電車の座席に、


 『完全な球体』が座っていたのだ。

 

 

 

~登場人物紹介~

・丸瀬円香

 高校生。地質研究部に所属している。文系。


完全な球体 

 中心の座標と半径のみで定義されている。

 

 

 

 しばらくの間、円香はその球体に目を奪われていた。丸い。あまりにも丸い。今までたくさんの丸いものを見てきたと自負している円香だったが、目の前のそれはもはや別次元の丸さなのだ。無意識に手を伸ばしそうになり、それをなんとか理性で抑え込んだ。円香の葛藤もまるで気にも留めていないかのように、球体はそこに佇んでいる。電車のシートにそこそこの大きさの球体が存在しているという圧倒的な違和感がそこには存在していた。だが、その違和感を呑み込んでしまうほどの超然的な存在感が球体にはあり、電車内はもはや荘厳とした空間と化しているように円香は感じていた。

 なんとか平静を取り戻した円香は、電車がもうすぐ自分の最寄り駅に到着することに気がついた。流石に持って帰っては駄目だろうし、放っておいても駅員がいずれ気付くだろうと考えた円香は、ひとまずスマホで写真を撮った。うっかりシャッター音を鳴らしてしまい慌てて周囲を確認したが、幸いにも車両に乗客は円香しかいなかった。ブレーキがかかり、電車が揺れた。立っていた円香はバランスを崩しかけたが、球体は転がることなくそこにあった。円香は心の中で尊敬の意を示しつつ、電車の開いたドアから降りた。SNSの投稿画面を開こうとしたとき、後ろから声を掛けられた。


「あの、すみません……」


 振り返ろうとして、違和感に気付く。この車両に乗っていたのは自分だけだ。当然、降りたのも自分だけのはずだ。この状況で、後ろから声を掛けられるはずがない。

 恐る恐る振り返る。そこには、


「今、写真撮りましたよね?」


 先ほどの球体が、円香の目の高さくらいに浮かんでいた。


「困るんですよね。肖像権の侵害ですよ?」


 話し掛けてきていたのは、完全な球体だった。

 あまりの光景に、円香は再び声を失った。

 

 


  ◎ ●

 

 

 

「あの、すみません……えっと、あなたは……?」

「……あぁ、流石に困惑しますか。私は完全な球体です」

「完全な……球体……?」


 円香は未だに冷静さを取り戻せずにいた。まるで人間の不完全さを理解していないかのように、完全な球体は話を続けた。


「さて、私は名乗りました。あなたも名乗るのが筋ってものでしょう」

「あ、あの、えっと、丸瀬円香っていいます。あの、名前に丸が2つもあって……」

「はい」

「えーと……はい……」


 鉄板の自己紹介も意図せず滑ってしまった。完全な球体には摩擦もないのか、と円香は改めて目の前の存在に慄いた。


「あの、写真のことはすいません……つい、出来心で……」

「ええ、写真のことはいいでしょう。実は私もあなたのことが気になっていたんです。さっき電車内でずっと私のことを見ていたでしょう。私も正直なところ戸惑っていったんですよ。どうしてずっと私を見ていたんですか?」

「えっと、ちょっと見たことのない丸さだったので……」

「なるほど。確かに私ほど丸いものはこの世界には無いでしょう。しかし、私のような存在はは誰もが最も想像しやすい、と思っていたのですがね。やはり想像と実在では違うのでしょうか」


 円香には目の前の球体が首を傾げているように見えていた。よく考えると、完全な球体と話せる機会なんてなかなか無い。円香は気を引き締めて完全な球体に向き直った。


「あの、すみません! 球体さんは電車でどこに行かれる予定だったんですか!」

「いや、実は行き先など無いのです。当てもない旅路、とでも言うのでしょうか」

「えーと、じゃあどこから来られたんですか!」

「それも特にありません。私の存在は人の定義に依るところが大きいのです。……ところで、場所を変えましょうか。あなたもどこか行き先があったのでは?」

「いえ、帰るとこだったので時間は大丈夫です! じゃあちょっと喋りながら一緒に歩きましょうか!」

「……そんなに気を張らなくていいですよ。リラックスしてください」


 2人は改札に向かって歩みを進めた。球体は空中を滑るように高さを変えずに等速直線運動をしていた。そんな移動ができるならわざわざどうして電車に乗っていたんだろう、と円香は少し怪訝に思った。
 改札に近づいてきた。定期の準備をした円香は球体がどうするのか気をつけて覗き込んでいた。球体は、自身の色を周囲の風景に溶け込ませ始め、やがてすっかり見えなくなってしまった。この完全な球体は人間の理解を超えているのだ、と改めて円香は認識した。


 普段は通らない川沿いの遊歩道を進んでいく。夕焼けが綺麗に映えていたが、そんなことは今の円香にはどうでもよかった。道行く人は球体を訝しげにじっと見つめたり、驚いて二度見したりしていたが、話しかけてきたりすることはなかった。円香はほんの少しの優越感を抱いていた。


「球体さん、って言いづらいですよね。きゅーちゃんってあだ名はどうですか?」

「ははは、いいですね。球体のきゅーちゃん。安直で素敵です」

「む、それって誉めてますか?」


 完全な球体を相手にするのに馴れてきたのか、円香はいつも通りのペースを取り戻していた。


「私もまるまるっていうあだ名があって、丸についてたまに考えるんです。丸いものってかわいいんですよ。カー○ィとかアン○ンマンとかドラ○もんとか。あ、今タピオカが人気なのもたぶん丸いからなんですよね。きっときゅーちゃんさんも人気出ますよ。丸いので」

「きゅーちゃんさんですか。敬称が2つもついているのが素晴らしいですね。確かに丸いと人気が出るとは思いますけど、GA○TZが流行ったときは大変でした」

「あはは、そんなのもありましたね」


 その見た目とは裏腹な球体の柔らかい話し方に、円香はすっかり安心してしまっていた。周囲も暗くなり始め、きゅーちゃんに帰るところはあるのだろうかと円香が考えていると、遠くに見知った顔が見えた。


「あ、あれ私の妹の茉莉(まつり)です。中学はここが通学路なので。たぶん部活終わりですね」

「なるほど。少し挨拶をしておきましょうか」


 茉莉も円香の存在に気がつき、手を振りながら2人のほうに近づいてきた。だが、近づくにつれて小走りだった歩みはゆっくりになり、ある程度の距離を保って立ち止まってしまった。


「お、お姉ちゃん……それ、何……?」

「茉莉、お帰り。こっちは球体のきゅーちゃん。電車で会ったの」

「茉莉さん、初めまして。完全な球体のきゅーちゃんです」


 茉莉は固まったまま動かない。円香が距離を詰めようと一歩踏み出したら、茉莉も一歩下がって距離を持った。


「お姉ちゃん……」

「茉莉? どうしたの?」

「……?」

「…………うわーーーー!!!!!! お姉ちゃんがーーーーー!!!!! お姉ちゃんが訳わかんなっ…………

 訳わかんないーーーーーー!!!!!!!!うわーーーーーーーー!!!!!!!!!」


 茉莉は泣き叫びながら走り去ってしまった。残された2人は状況が飲み込めずしばらく立ち尽くしていたが、気まずい空気を断ち切ろうと円香が口を開いた。


「あはは、すいません、うちの妹が。本当はとってもいい子なんですよ?」

「……いや、謝るのは私の方です。私が茉莉さんを怯えさせてしまって、申し訳ありません。こんなことでは完全な存在とは言えません……」


 謝らないで、と言おうとした口を円香は一旦閉じた。球体の一言が心に引っ掛かったのだ。


「すいません、そのー……完全な存在っていうのって、何なんですか?」

「……完全な存在とは、定義がはっきりとしており、どんな人にでも正しい形が共有できるものです。それなのに私は、茉莉さんからは円香さんからと違う存在に見えていたのでしょう……」

「……まぁ、気にしなくてもいいじゃないですか。人間ってそんなもんですよ。意思疎通がきちんとできなくて、正しいイメージが共有できなくて、不完全で。これを機にきゅーちゃんも不完全になっちゃいましょう」

「不完全でも、いい……」


 そう呟いた球体は、もはや完全な球体とは言えない形状になっていた。一方向に伸び、縮み、捻れ、微分不可能な形になった。やがて空気が抜けたように萎んでいき、地面に落ち、消え去ってしまった。最後に、ありがとう、という一言が聞こえた気がした。

 円香はそれを見て呆気に取られたが、やがて家路に向かい歩き始めた。

 完全な球体は、いつでも心の中にあるのだ。あとスマホのカメラロールにも。